様々な分野の第一線で活躍する一流のプロたち。その仕事には、どのような試行錯誤があり、それをどう乗り越えているのだろうか。その道をリードするプロフェッショナルたちの言葉から、仕事の醍醐味、奥深さを感じ取って欲しい。

プロフェッショナルが語る私の仕事道

日本の食文化を世界に広げたい
その夢が、仕事の原点

夢を胸に抱いたまま、しょうゆからかまぼこの世界へ

 日本の食卓で長く愛されている「かにかまぼこ」。1990年に、「ロイヤルカリブ」が発売されて以来、その味を超えるのは難しいと業界内では言われ続けていた。しかし、2005年に、限りなく本物のカニに近い味、香り、食感をもったかにかまぼこ「香り箱」を開発し、周囲を驚かせた男が、野田文雄氏だ。

 現在は、株式会社スギヨで開発本部長を務める野田氏だが、東京教育大学(現筑波大学)を卒業後、キッコーマン株式会社に入社し、30年ほど勤めたという経歴をもつ。海外工場立ち上げにも携わり、日本のしょうゆを世界に広げるために情熱を注ぎ、大きく貢献。一大事業を成し遂げた後に、知り合いからの誘いを受け、1997年に株式会社スギヨに入社した。「かまぼこという全く異なる世界に飛び込むことに、とまどいもありました。しかし、私の夢は『日本の食文化を世界に広げること』。それは、しょうゆでもかまぼこでも実現することができると考えたのです」。

新しい発想で、かにかまぼこの開発に革命を起こす

 野田氏に与えられた使命は、「ロイヤルカリブ」を超えるかにかまぼこを開発することだった。しかし、野田氏は、「食感、味、香り。この全てにおいて、本物のカニを超えるかにかまぼこを開発する」という、より高い目標を掲げた。世界に認められる食品を作り、自身の夢を叶えるためだ。

  野田氏が開発でこだわったのは、「感覚ではなく、工業的に作ること」。人間の味覚ではなく、理論的に最高級のカニを再現しようとした。

  「まずはじめに、鮮度の高いカニはもちろん、傷んだ状態のものまで徹底的に分析しました。最高級のカニの成分を明確にして、その味、香りを再現するための原料を選んでいったのです。次に、カニの身の長さ、重さ、太さを調査し、口に入れた時に、ほぐれそうでほぐれないプリプリした食感を、物理的強度を計算して再現。どちらも、これまでのかまぼこの分野にはなかった発想でした。スギヨが培ってきた伝統技術に、私がしょうゆの醸造で培ってきた技術を加えたことで、かにかまぼこを進化させることに成功しました」。

  開発をスタートしてから、3年後に完成。夢が野田氏の原動力となり、新しいかにかまぼこの開発を成功に導いたのだ。

最高級のかにかまぼことして高く評価され、天皇杯に輝く

完成したかにかまぼこは、海の宝石箱とも呼ばれるカニの香りをイメージして「香り箱」と名付けられた。「『香り箱』を機械で分析すると、香り、味ともに最高級のカニと同じレベル。とれたての新鮮なカニには及びませんが、ごく一般に売られているカニには負けない自信がありますね」。

  限りなく本物のカニに近く、これまでのかにかまぼこの概念を変えたと評価され、2005年に農林水産大臣賞、さらに2006年には、農林水産省が主催する農林水産祭で最高賞となる「天皇杯」を受賞した。

  「『香り箱』が天皇杯に輝いたことで、かにかまぼこは、インスタントラーメン、レトルトカレーに並ぶ、日本三大開発食品としての地位を確かなものにしたと言えるでしょう。『香り箱』は、国内はもちろん、中国、アメリカなど海外からも高く評価され、輸出量も増加しています」。

 しょうゆからかまぼこの世界を世界へ広げた野田氏。今後の目標を問うと、「能登の食文化を世界に発信すること。能登には、まだまだ未開拓の食品がたくさんあります。そこに、科学の技術を投入して、能登から第4の日本開発食品を生みだしたいですね。すでに、地元の大学と共同で研究をスタートしていて、良い結果がでているものもあるんですよ。『地産地消』という言葉がありますが、私は、地元で生産して地元で消費するだけではなく、地元で生産して世界にも発信していきたいと考えています」。

64歳。夢への挑戦はまだまだ続く。

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