専門家ではなく、ファン代表として
現代美術の魅力を伝えていきたい
編集者から美術館の広報スタッフへ
金沢の中心部にあり、ガラス張りで円形の建物が印象的な金沢21世紀美術館。この美術館の立ち上げに携わり、当時、広報スタッフとしてその魅力を広く伝えた人物が、落合博晃氏だ。
落合氏が、ここで働きはじめたのは2003年4月、オープンの一年半前。「大学時代から演劇、美術、映画が大好きで、出版社に就職。情報誌のアートページを担当し、多くの作家さんに会うことで、『現代美術は今を表現するアートだ』ということに気づき、その魅力にひかれていきました。その後、アートページの担当からはずれ、会社の管理業務をしていた時期に、偶然ホームページで広報スタッフ募集の記事を見て、『これだ』と。雑誌を通して、現代美術の魅力を紹介してきた自分にしかできない方法で、この美術館に貢献できるのではと考えたのです」。
オープンに向けて、メディアへの露出を増やす
初代館長である蓑豊氏は、年間入場者数30万人を目標としていた。地方都市の美術館の平均は年間数万人と言われている中で、ハードルの高い数字だ。当然、広報である落合氏にも大きなプレッシャーがあった。
しかし、落合氏は独自の戦略を考え、実行し、そのプレッシャーをはねのけた。「オープン前までが勝負と考え、とにかくメディアの露出を増やしました。特に、力をいれたのは、女性誌と情報誌。雑誌の性質上、一つの雑誌で紹介されると、他の雑誌でも次々と取り上げられると考えたからです」。
落合氏の狙い通り、金沢21世紀美術館は多くの情報誌、女性誌で紹介され、さらに、その影響で発行部数が多い会員誌や季刊誌にまで掲載された。
また、プレスリリースや取材時の対応には、落合氏ならではの姿勢があった。「何よりも大切にしたのは、ファンの目線。どんなに素晴らしい作品であっても、専門用語を使って、難しく表現していたのでは、一般の人にはその魅力は届きません。ファン代表になって、いかに楽しく、分かりやすく伝えるか。この考え方は、編集者の時に培ったもので、今でも現代美術に関わる時の基本姿勢です」。
2004年10月、ついに金沢21世紀美術館がオープン。入場者数は、なんと一年間で157万人を超えた。予想をはるかに上回る数字だ。金沢の街を活性化し、大きな経済効果を与えたと評価され、美術館としてだけではなく、新たなビジネスモデルとしても注目され、ビジネス誌にも取り上げられた。
街のにぎわいを生みだし、市民に愛される美術館を目指す
昨年の4月に交流課に異動。落合氏に与えられた次なる使命は、金沢の人たちにより多様なアートの表現を楽しんでもらうことと、金沢21世紀美術館から街のにぎわいを生みだすこと。「交流課では、今まで以上に金沢に住んでいる人のことを強く意識しなければなりません。プロとして魅力的なイベントを企画することはもちろんですが、常に街の人たちにとってこれは本当に面白いのかという視点を忘れないようにしています。美術だけではなく、映画や音楽、演劇、ダンスなどアートにも様々な表現方法がありますが、街がにぎわうイベントを企画し、誇りに思ってもらえるような美術館にしていきたいです」。今年の5月から、金沢21世紀美術館では、オーケストラアンサンブル金沢と共同で、無料ゾーンや広場、展示室などで、クラッシックコンサートを開くという新しい試みをスタートした。日頃クラシック音楽に触れる機会の少ない人達に、気軽に楽しんでもらうことが目的で、一年を通して定期的に開催する予定だ。
「金沢21世紀美術館がオープンして、3年。これからは、イベントや展覧会などソフト面の魅力を、さらに加えていかなければならないと思っています。街の人たちにとって面白い表現、新しい表現を盛り込んだイベントを企画して、その人の人生を変えるくらいの感動を届けたいですね」。