様々な分野の第一線で活躍する一流のプロたち。その仕事には、どのような試行錯誤があり、それをどう乗り越えているのだろうか。その道をリードするプロフェッショナルたちの言葉から、仕事の醍醐味、奥深さを感じ取って欲しい。

プロフェッショナルが語る私の仕事道

マニュアル通りでは、失格。期待以上の
サービスを提供してこそ、感動が生まれる

小学生の子供を育てるため、加賀屋で働くことを決意

 「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で27年連続総合1位に選ばれている加賀屋。日本一のおもてなしを求めて、全国各地から数多くの人が訪れるこの旅館で、現場で活躍しながら、現在160人いる客室係の教育リーダーとして後輩を育てているのが、岩間慶子さんだ。

岩間さんが、加賀屋に入社したのは、昭和44年。33歳で離婚し、小学校3年生と6年生の子供二人を、福祉や行政の保護に頼らず、女手一つで育てることを決意。職業安定所で、全国で一番社員の定着率が良い旅館はどこかと尋ね、紹介されたのが、加賀屋だった。当時は教育係などいなかったため、先輩の動き、客との会話を見て真似し、現在の加賀屋のもとを築いたと言われる、先代女将のおもてなしの心を身につけていったという。

「おもてなしとは、お客様のニーズに合ったサービスを提供すること。マニュアル通りのこと、お客様から言われたことをしているだけでは、真のおもてなしとは言えません。お客様の行動、会話をさりげなくチェックし、言われる前に、望んでいることをする。例えば、事前に誕生日祝いだと聞いた場合、お祝いのケーキやバンドの生演奏などを用意しますが、あらかじめ宿泊目的を教えていただけるケースは、そう多くありません。私たちは、事前にお伺いしていなくても、お客様の会話から特別な日だと察し、お祝いをします。相手が期待していた以上のサービスを提供することで、感動が生まれるんです」。

心からお客様を思うことが、信頼につながる

 旅館は、時に企業が取引先との接待や交渉の場所に使う。この時、円滑に進むように接客するのも客室係の大切な仕事で、岩間さんには、長年にわたって担当した仕事があるという。能登の発電所建設に向けた電力会社と地権者との立地交渉だ。この交渉は加賀屋で行われており、毎回立ち会っていたのが岩間さんだった。多い時は月に4〜5回、厳しい交渉が何度も繰り返された。ある時、ホスト役として交渉の席をセットしていた電力会社の人が、岩間さんに質問をぶつけた。「あなたは、どんな気持ちでいつも私たちの接客をしているのですか」と。岩間さんは「この席にいる時は、御社の社員のつもりで接しています」とすぐに答えた。この一言が気に入られ、それ以降も交渉の席には必ず岩間さんが指名されたという。

23年後、ついに交渉が成立。この時、岩間さんは電力会社の人と交渉相手の人と肩を抱き合って喜んだという。「交渉期間中に、お客様のことを少しでも理解したいと発電所の建設現場を見に行ったこともありました。お客様のことを理解し、心からお役に立ちたいと思っていたからこそ、自分のことのように喜べたのだと思います」。

もてなしの心を後輩に受け継ぐため、教育リーダーに

 それまで客室係として培ってきたもてなしの心を後輩に受け継ぐため、現在は後輩客室係の指導も担当。そこには、岩間さんならではの指導法があった。「後輩を叱る時は、お給料は会社からではなく、お客様からいただいているんだということを必ず伝えます。そうすることで、自然とお客様を第一に考えて行動しなければならないと気づくことができるんです。また、指導するだけでなく、時々は食事に誘うなど、仕事から離れてプライベートのことを話す時間を作ることも教育係の役割だと考えています。悩みを抱えていると、笑顔になれませんし、良い仕事もできませんから」。日本一のもてなしを生みだす、このような指導法が注目を集め、社員をやる気にさせる方法や、おもてなしの心を教えてほしいと、岩間さんには、全国の官公庁や日本を代表する大企業から数多くの講演依頼があり、年間30本以上の講演会をこなすそうだ。

「私は38年間加賀屋で客室係を務めていますが、自分がベテランだとは思ったことはありません。お客様は一人ひとり求めているものが異なりますし、リピーターのお客様からは前回よりもさらに質の高いサービスが求められます。おもてなしとは奥深いもので、これでいいという正解はないので、毎日が勉強です。自分を磨きながらも後輩を育て、先代女将から受け継いだ日本一のもてなしを守り続けていきたいですね」。

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