様々な分野の第一線で活躍する一流のプロたち。その仕事には、どのような試行錯誤があり、それをどう乗り越えているのだろうか。その道をリードするプロフェッショナルたちの言葉から、仕事の醍醐味、奥深さを感じ取って欲しい。

プロフェッショナルが語る私の仕事道

失敗には必ず原因がある。それを冷静に
分析して、次につなげることが大切

酒造りのプロを目指し、農口杜氏のもとで学ぶ

 日本三大名山の一つである白山のふもとに位置する酒蔵「菊姫」。天正時代に創業して以来、日本酒本来の旨さを追求し、酒好きの舌を魅了する酒造りを続けている。原料米、設備、製造工程すべてにおいて妥協を許さないこの酒蔵で腕を磨き、世界が認める最高峰の酒をつくった男が、山上弘茂人氏だ。

現在は、酒質管理主任として、菊姫の酒の味を管理、設計している山上氏だが、入社後9年間は、日本を代表する農口杜氏のもと、現場でひたすら酒造りのノウハウを学んだ。「とにかくハードな毎日でした。仕込みの時期になると、朝5時から夕方5時まで休みなく作業が続きます。農口杜氏は、酒質設計から現場の管理まで、すべて一人でやっていました。厳しい方でしたが、それは自分の仕事の出来が酒の味を決めるという責任感から。農口杜氏と一緒に酒造りをしたことで、酒の味に対する責任感を学びました」。その後、体調を崩して、ハードな現場から一歩退くことになった山上氏。しかし、酒造りに対する熱意は変わらず、酒質管理の仕事に携わることになった。

「菊姫会」の要望を形にするため、新しい酒造りに取り組む

 2003年、山上氏のもとに一つの依頼があった。菊姫の酒を販売する小売店で構成される「菊姫会」。そのメンバーから、「菊姫会」の専売酒をつくってほしいと言われたのだ。要望は2つ。酒米の王者と言われる「山田錦」を使用して、吟醸酒なみに手間をかけた純米酒をつくってほしいということ、菊姫らしい旨さのある味にしてほしいということ。この2点を形にするため、精米歩合、酵母、仕込み温度などを決め、酒質を設計していった。「菊姫会が求める味を形にすることに加えて、既存の商品とは違うものを造ろうと考えました。菊姫の酒は、2〜3年熟成させてから出荷するものが多いのですが、1年で出荷することで、若くても年月が経っても楽しめる酒にしようと」。

毎年2月に開催される菊姫会の総会で、参加者に完成した酒を試飲してもらった。山廃仕込みによる旨味、コシが強く酸味の効いた味わい…。しかし、反応は芳しくなかった。「依頼主である菊姫会と私の味のイメージにギャップがあったことが大きな原因でした」。また、初めて試す配合の酵母だったので、目指した味と完成した味にズレがあったことも、原因の一つだったという。  成功とはいえない結果を残して1年目の挑戦が終わった。しかし、秋にはまた仕込みが始まる。それまでに、菊姫会を納得させる味を設計しなければならない。「発酵力の強い酵母を使用していたので、前回よりも発酵に対するブレーキを強めて、酸と甘みのバランスを上手くとるようにしました。『若くても熟成しても楽しめる酒』という狙いはそのままで、菊姫会がイメージする味に近づけることを第一に考えました」。

 緻密に計算し、設計しているものの、酒造りは思い通りにいかないことも多い。現場で臨機応変な対応を迫られることもある。それでも山上氏は、原因を冷静に分析する。「失敗には必ず原因があります。思い通りにいかなかったことをなげくのではなく、原因をはっきりさせて、次につなげることが大切です」と語る。酒造りに対する真剣さ、愛情が、失敗に正面から向き合う強さを生みだしているのだろう。

個性ある味が評価され、世界が認める酒に

「鶴来町」から一文字とって名前は「鶴乃里」に決定。「菊姫会」からの評判もよく、発売から3年目、世界的に権威のある大会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」のSAKE部門に出品した。 2007年度の大会から初めて設けられたSAKE 部門。200銘柄を超える酒が出品された中で、「鶴乃里」が、見事最優秀賞に輝いた。「9月に受賞が発表されて以来、注文が殺到し、9月中に売り切れました。受賞がきっかけとなって、今まで味わったことがなかった人にも、日本酒の良さを知ってもらえると嬉しいです。ワインやビール、他社の酒などいろいろな味を勉強したり、小売店の方と積極的に話をして新しいことを吸収し、将来は酒のプロと呼ばれるようになりたいですね」。

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